毎日新聞 2023年3月25日 「山陰・山陽 この人」 【全文掲載】
瀬戸内の景色を楽しみながら、広島市を中心に広島県内4市5町にまたがる山々を歩いて旅する総距離約300キロのコース「広島湾岸トレイル(HWT)」を中心となって開発し、維持管理、運営している。
2013年、米国北東部にあるトレイルコース「アパラチアン・トレイル」を取り上げたドキュメンタリー番組を見たのがきっかけ。当時、日本では「ロングトレイル」という言葉はほとんど知られておらず、「アメリカにはこんなものがあるのか」と驚いた。
登山は登って下るのが基本。だが「みんなが気軽に、1、2週間かけて旅をするように山登りができないだろうか」と以前から考えていた。そこで、広島市周辺の山々を繋いだトレイルコースを作ろうと、所属する山岳会の会合で構想を発表。
仲間の後押しもあり、研究会を設立した。
翌14年、自治体が発行する各地の登山マップを基に、ルート探査を始めた。最初は困難の連続だったという。あまりひとが立ち入らない山道では、背丈まで伸びたヤブが道を覆っていた。刈っても刈ってもなくならない。ヤブの刈り取りで「高かった登山服を何着もだめにした」と笑う。
15年に最初のコースが完成し、現在までに5コースを整備した。総延長は293.8キロ。56の山と四つの島を越えて歩く壮大なコースは中国地方最長級だ。
コースを作る際に意識したのは間口を広げること。「標高1000メートル以上の山にコースを作るべき」という意見も出たが、あえて低い山を中心にした。「誰でも気軽に参加できるように。裾野が広いからこそ、きれいな頂上ができる」と力説する。
当初から「市民の市民による市民のためのトレイル」をキャッチフレーズに活動している。
行政の資金援助は受けずに手弁当で活動。ルートの草刈りや誘導標識の整備、修繕も有志で続けている。
構想から10年。知識も技術も資金もない状態からHWTを築き上げた。最近は地元の山岳グループなどの協力を得られるようになり、「10年間の活動の成果だと思う」と目を細める。数年前から新しいコースづくりを進めており、山口県に伸びるルートが間もなく完成する。「道のない所を行き、新しい道を作る。これほど面白いことはない。わくわくしますよ」【岩本一希】
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